カタリナ姫 (山岸しのぶ)

a Story of the はくらくの果実    作: 虎林はんじん

 


 舞台は、荒涼とした大地が拡がる最果ての地。

ただ一本の朽ち果てた大木(はくらくの木)の残骸があるだけの不毛な大地に、男《ゴンタ》は母と共にひっそりと暮らしていた。
荒れ地を耕し、実ることの無い種を蒔き、ひたすら収穫の時を夢見るゴンタ。
しかしある夜、何者かによって、大切な畑が荒らされてしまう……
「一体誰が!?」怒ったゴンタは畑に罠を仕掛け、ある夜ついに「泥棒」を捕まえたのだった。
しかし、犯人は、思いもよらない若く美しい女性《カタリナ》であった。
「遠い都から内乱を逃れ、ただ一人この地に流れてきたのだが、大切な「宝の箱」の鍵を無くしてしまった……」
カタリナのつらい身の上話に同情したゴンタはカタリナを許し、一緒に鍵を探すために、大切な畑を掘り起こすことを決意する。
しかしカタリナは、明日の夜、再び来ると言い残して、何処かへ姿を消したのだった……
次の朝、ゴンタは畑に不審な軍用テントを見つける。テントの主は「盗賊」を捕まえに来た《軍曹》と名乗る革命軍の兵士。
「君なら立派な軍人になれる!…はず」おだてられたゴンタは、すっかり軍曹と意気投合するのだった。
その夜、カタリナは約束通り畑にやって来た。 夜通し鍵を探すゴンタとカタリナ。
しかしその夜は、いつか母から聞かされた伝説の「赤い月の夜」であった……

"赤い月の夜の丘に咲く、白い花を見た若者は永遠に帰って来ない……"

胸騒ぎを覚えるゴンタであった。
その時、丘の上の方から何か物音が!! …そして、不気味なその音は、次第に大きく響いてくる!!
「まさか、怪物? それとも追っ手の魔の手か?」

しかし、はくらくの大木の古切り口から登場したのは、地質学者の《ナカモト》だった。
「この木の下には、地下水の浸食によって大きな(穴)が空いている。そして、失われた古代都市が眠っているんだ!
これは世紀の大発見だよ!!」 興奮する仲本。つられてはしゃぐゴンタだった…が、実はさっぱり意味が判らなかった……


話は変わって……
マントを着た男と、目隠しをして手を引かれた若い女、2人の《旅人》が砂の丘にやって来る。
……何処から来て、何処へ行くのか……
襲い来る砂嵐に絶えながら、2人はただ「ある場所」を探して、果てしの無い旅を続けるのだった。


さて、ゴンタとカタリナは遂に「金の鍵」を探し当てた。
すると、そこに軍曹が現れ「金の鍵」とカタリナを連れ去ろうとし、ゴンタは必死で抵抗するが、所詮、敵う相手では無かった。
(軍曹は、カタリナの持つ「王家の金の鍵」を奪い財宝を横取りするためにやって来た、反乱軍の兵士だったのだ)

"カタリナを救うんだ!!"

ゴンタは決心し、消えたカタリナを追って、中本とともに「はくらくの木の穴」の奥深くへ旅立って行く……

……赤い月の夜は静かに明けていった……


朝、2人の旅人が「はくらくの木」の立つ丘にやって来る。
男は女に目隠しを取る事を許し、「銀の鍵」を手渡した。

「私の仕事は貴女をここまでお連れすること。ここから先は、貴女一人で行きなさい……」
そう言い残して、男は一人荒野へ消えた。
残された女は「銀の鍵」で「はくらくの木」の扉を開け、恐る恐る一歩を踏み出した。

そのとき、まばゆい光が辺りを満たし、群衆の大歓声が響き渡った。
王女は、懐かしき青の都の人々の元へ、再び帰って来たのだ!!

〔 完 〕