劇団 のあ 第19回公演 
(第7回 柏崎演劇フェスティバル参加作品)  


2匹の金魚 ぶりきの金魚

2001年 3月 3日 PM 7:00〜   於: 柏崎市産業文化会館 文化ホール

  作 ・演出 虎林はんじん

  音響効果 萩野知己   照明効果 小林昭人   舞台監督 じーぱん   制  作 新熊友子  

   マチコ 小林優子     ゴロー 阿部新一     少 女  山岸しのぶ     サチエ つなしまゆみ     トシオ 虎林はんじん

  

  西日だけが射し込むアパートで、女は縫い続けた。
 果てしなく繋がった白い過去と、細くはかない一本の糸でつながれてゆく、端切れの様に
  小さくて心許ない未来を・・・

 工場の煤煙に覆われた灰色の空の下、ささやかに生きる男と女。
 明日を見つめて歩き続ける男……
 ただ、運命に流されて行く女……
 深く冷たい、12月の雨の河に翻弄されながらも、儚い明日への希望を胸に運命の激流
  に漕ぎ出した二人の姿を、ノスタルジックに描いたストレートドラマ。
       
 伝説の怪優 阿部新一 を迎え、主演は当劇団の代表 小林優子
  つなしまゆみ、山岸しのぶ… 実力派のキャストと、定評有る技術スタッフ陣。
  虎林はんじん が、叙情性溢れる台詞にのせて紬ぎ出した「大人のための純愛ドラマ」。   
 各方面から絶賛を頂いた、劇団のあ 史上初の[R]指定作品!!

ゴロー

       

 


公園で一人たたずむゴロー。

  私はこうして雨の街を彷徨っている…
  夜の街に灯る、ささやかな君の部屋の灯りを
  確かめるために……

 

オジサン、お花を買って!!

  オジサン、お花を買って。この花は月下美人の花。   
  青い月の夜に、人知れずひっそりと咲くのよ…。
  いいや結構、花なんか要りませんよ。

帰ってください!ミシンなんかいりません!

  帰ってください! アタシそんなに簡単に
  ミシンなんか買う女じゃ無いんだから!
  いや…待ってくださいそんなんじゃ無いんです!


この世の中、金が全てサ。

  ああ、良いぜェ。何だって買ってやる。
  ホント!? オニイサンお金持ちなのね!?
  まあな。もうすぐとてつもねェ大金が手に入る。

金魚

アタシはアンタが羨ましいよ。

 でもさァ、アンタは良いわよねェ。亡くなったお母さん
 の
保険金がガッポリ入ったんでしょう?
 いいえ、そんなこと無いですよ。

これでアタシもリッチになれるわ!!

  フン、バーカ。これでアンタが死ねば、保険金
  は
全部アタシのモノよ。

ミシン屋さん?どうしたんですか……

  ミシン屋さん!?大丈夫ですか、ミシン屋さん?
  どうしたんですか?しっかりしてください!!
  ひどい熱……待っていて、今、救急車を……

アバヨ!!ヒャ〜ハハハ……

  金はどうした?三百万持って来いって言ったダロ!?
  お金なんか無いわ。アンタが全部持ってったもの。
  ふざけるな!!金のねえお前なんか生かしてたって
  仕方ねェ。死んじまえ!!

こうなりゃ仕方ねえ。覚悟しろ!!

 こうなりゃ仕方ねェ、二人まとめて始末してヤル!
 止せ!お前はもう逃げられないゾ!!
 ヘッ。もう手筈は付いてるサ。クタバレェ〜!!

少女はドラッグに冒されていた……

  この花は、月下美人の花…青い月の光に透けて
  清らかに白く咲く花……
  …でも、本当はただのイミテーションです……

それっきり、ゴローさんに逢うことは有りませんでした……

  アタシは、知らない街で新しい生活を始めました。
  未来は、相変わらず小さな端切れサイズですが

  ミシン掛けは、あの頃よりずっと上手になりました。

 

 

 

 



          工場裏の錆び付いたポールの旗が、パタパタと風になびくのを見上げながら、キミはあの時確かにワタシに言った。
    「まだやり直せる」と。

     それは、小さな声だった……吐き出される工場の廃液で、黒く淀んだドブ川から、浮かんでは消えるメタンガスの泡
    が弾ける音にかき消されてしまうほど、小さな呟きだったけれど、キミは確かにそう言った……ここかも知れないどこか、
        ここじゃないかも知れないどこかに、本当の生活があると。いつか、それを見つけられたら、人生はやり直せると……
     そしてキミは、まるで今朝生まれたばかりの雛鳥の様に、フラフラとおぼつかない足取りでワタシの手から飛び立っ
        て行った……

                    ――― あれからキミは、本当の生活を手に入れただろうか? ―――

     赤錆色の煤煙に覆い尽くされたこの街の何処かで、新しい毎日に胸躍らせているだろうか?
     ワタシはそれだけが気がかりで、こうして雨の街を彷徨っている。
     夜の闇に灯る、ささやかなキミの部屋の明かりを確かめるために ……


             オジサン、お花を買って。綺麗な花を……

          一夜限りの月下美人の花……二度と巡り来る事の無い、特別な夜。青い月の光に透けて、清らかに白く咲く花……
             でも、ホントはただのイミテーションです。
            夕べも、一昨日の夜も、先週も先月も、華やかなネオンと甲高い笑い声の響く街角に立って、オジサンを待ってい
          たんです……あんまり待ちすぎちゃったから、路地裏の埃っぽい風に吹かれすぎて、ちょっと汚れています。
             数え切れない程の見知らぬ太い腕に抱かれたから、針金に巻いたテープだって禿げてます……
            でも、ほら見て! まだ綺麗よ……汚され、踏まれ、捨てられそうになっても、毎晩磨いて来たから、綺麗よ。
      夜が終わるたびにアタシ、ちゃんと磨いて来たんだもん……
      ねえ、オジサン、買ってお花を。 
                                                    今夜、生まれたばかりのこの花を……

    


     ストーリー  


    

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